2024年


ーーー6/4−−−  お金が嫌い


 
たぶん40歳前後の頃だったと思うが、この地で知り合ったグループの飲み会で、どういう話からそうなったのかは覚えていないが、「私はお金が嫌いだ」と述べたことがあった。それを聞いてある人が憮然とした表情で、「お金がなきゃ暮らせないでしょう?」と言った。私は、「もちろんお金は必要な物だが、お金がからむと、とかく厄介な事が起きる。お金に縛られたり、翻弄されたりするのは不愉快だ。だからお金が嫌いなのだ」と答えた。

 先日ラジオで講談の「三方一両損」を聞いた。話が始まる前に演者から、昔の江戸っ子はお金が嫌いだったとの前振りがあった。そして、ストーリーの初めの部分で、三両のお金を拾った男が、それを落とし主に届けると、落とし主は「いらねえ」と突き返す。一旦自分から離れた金は、もはや自分の物ではないから、受け取るわけにはいかないと言うのである。三両と言えば大金だが、それを惜しんで筋を曲げれば男がすたる。お金なんぞに面目をつぶされてたまるか、てなもんだろう。お金に縛られることを嫌う、江戸っ子の気質が感じられた。

 お金は、生活をする上で大切な物だが、他にも大切な物はある。概して、本当に大切な物は、お金では買えない。お金に執着すると、その本当に大切な物を失う怖れがある。これは江戸っ子の世界だけでは無い。聖書にもこう書いてある。「金持ちが天国へ行くのは、ラクダが針の穴を通ることより難しい」




ーーー6/11ーーー  ICレコーダーのトラブル


 昨年3月に迎えた古希のお祝いのプレゼントとして、子供たちが共同で贈ってくれた品々の一つが、ICレコーダーだった。小型の録音機である。スマホにも録音機能はあるが、楽器の練習に使うには音質の点で少々不満があった。そこで、録音専用機を頂くことにした。

 実際に使ってみたら、利点と欠点があった。利点は、音質が良い事と、録音・再生の操作にオプションが多くて便利な事。欠点は、文字入力機能が無いので、録音した曲にタイトルが付けられない事。この欠点は決定的なような気もしたが、その場限りの練習に使うだけなら、さほど問題でも無い事が分かった。大切な録音で、どうしてもタイトルを付けたい場合は、パソコンに繋げば入力することはできる。

 さて、このICレコーダーを使い始めて一年と少し経ったある日、いつもの操作をしていたら、急に画面が真っ暗になった。ボタンを押せば再生の機能は使えるのだが、画面が見えないので、録音ファイルの選択や各種モードの切り替えなどができない。つまり、ほぼ使い物にならない。保証期限は一年間だから、もう切れている。こんなに早く壊れてしまったと、暗い気持ちになった。

 取扱説明書に、故障の際の連絡先が記載されていた。まず、指定されたサイトにアクセスしてみた。すると、よくあるケースのQ&Aが表示されたが、該当する物は無い。次に電話をかけてみたら、自動音声が流れて、スマホの番号を入れればショートメールを送るので、それに問い合わせの返信をせよとの案内だった。しかし、その操作をしても、上手く行かない。なんだか意地悪をされているようで、不愉快になった。

 近ごろの、家電製品やIT機器の相談窓口というのは、こういうのが多い。肉声での対応は無く、自動音声であれこれやらされる。メールで問い合わせをしようと思っても、メールアドレスの記載が無い。指定されたサイトを見ても、まことに行き届いておらず、役に立たない。

 今回の件では、メーカーのサイトに、故障の際の修理費用に関する情報があり、どんな修理でも最低13000円は掛かるとされていた。そんな金額を支払って修理をする気にはなれない。また一年で壊れたら、バカみたいである。多少の金は要っても、修理をするより、別の製品を買った方がましである。しかしそれは業界の思う壺であるように勘ぐってしまい、これまた不快であった。

 たぶん故障だろうと見なしていた私は、捨ててしまう気になりかけていた。その時、例の連絡先の記載の中に、ファックス番号があることに気が付いた。ファックスを送ったところで、返事が来るとも思えなかった。根深い不信感が醸成されていたのである。それでも、ダメもとで文面を書き、送信した。

                    

 

 半日経っても音沙汰無かったので、「やはりダメか」と思った。ところが夕方5時半ころになって、若い女性の声で電話があった。ファックスの内容を確認した後、再起動をすれば元に戻る可能性があるから、試してほしいと言った。再起動の方法は、電源スイッチを8秒間以上長押しするのだと。電話を繋いだままICレコーダーを手に取り、それをやってみたら画面が復帰した。これはちょっとした感動の瞬間だった。私は丁寧にお礼を述べて、電話を切った。しかし、こんなに大事な事が、なぜ取扱説明書に記載されていないのだろうか?

 ともあれ、怒りにまかせて捨てる気になっていたICレコーダーが救われて良かった。ファックスというアナログな手段が、却って正解だったのかも知れない。




ーーー6/18−−−  安価なチェーンソー


 
千葉から信州に移って、田舎暮らしをしている友人がいる。年に二回くらい遊びに行くのだが、この春訪れた時、彼が所有するチェーンソーのことが話題に上った。しばらく前から、エンジンが掛からなくなったが、どうしたら良いだろうと、相談されたのである。私なりに手を尽くしたが、やはりエンジンは掛からなかった。そこで、以前私のチェーンソーを修理してもらった業者に頼むことを提案した。

 その業者は、チェーンソーを専門に扱っており、修理をして貰った時の経緯から、私は信頼を置いている。友人のチェーンソーを預かって、その業者に見て貰うことにした。

 先日、その業者の取次店の近くを通る機会があったので、チェーンソーを持参して持ち込んだ。その店は、薪ストーブ関連の商品を販売しており、私の家から車で15分ほどの所にある。店番の女性にチェーンソーを渡し、修理費の予算は1万円だと、友人の意向を伝えた。すると女性はいささか困惑した顔になった。自分は取次をするだけなので、修理の内容とか費用の事は分からない。直接修理業者に電話を入れて、相談をした方が良いと、電話番号を教えてくれた。

 その場で電話をかけて、話をした。まず、現在チェーンソーや草刈り機の修理が殺到していて、すぐに対応出来る状態では無いと言われた。話のついでに、以前修理をして貰ったことや、友人から預かっている物だとの説明をすると、少し突っ込んだ話になった。

 まず、どこのメーカーかと聞いてきたので、ハスクバーナだと答えた。スウェーデンの一流メーカーである。すると相手は、ハスクバーナでも、安価な品が売られていて、そういうのはすぐに故障すると言った。

 友人がチェーンソーを買った当時、私が「ずいぶん高級品を買ったね」とコメントしたら、驚くほど安い値段(たしか2〜3万円)と聞かされて、驚いたことを思い出した。一流メーカーが、廉価版のチェーンソーを販売していることを、私は知らなかったのである。

 チェーンソーの修理は、主要部品の交換となればすぐに万単位の費用となる。プロ仕様の高額なチェーンソーなら、修理をして使い続ける価値はあるが、安価な品物は、そもそも出来が悪いから、修理をすることが妥当かどうか考えてみた方が良い、との見解を修理業者は述べた。

 さらに説明があった。廉価版のチェーンソーは、米国ではずいぶん前から日本の何十倍もの需要があり、100ドルチェーンソーなどと呼ばれている。そういう物は、使い捨て感覚で、補償は50時間までというような品質。キャンプに行って薪を切るためだけの、一回限りの用途のために買うというような物らしい。そういう廉価版が、最近日本国内でも出回ってきたとのこと。

 使い捨てのノコギリと言うのは世の中にあるが、使い捨てのチェーンソーとは、ちょっと驚きの話だった。

 キャンプの話は極端かも知れないが、自宅の周囲の立木を伐採するのに、ノコギリでは手に負えない、かと言って業者を頼めば高額な支出となる。だったら、使い捨てのチェーンソーを買い、自分でやった方が、安上がりだし楽しくもある、というような発想は想像できる。

 日本でも、薪ストーブの人気が高まり、薪を準備するために、チェーンソーを使う人も増えてきているようだ。しかし、一般的に言えば、まだまだ特殊な道具で、触ったことすら無い人が大部分だろう。それに対して、アウトドアライフの本場米国では、チェーンソーの位置付けは、もっともっと身近なものなのだろうと思った。




ーーー6/25−−−  役に立つ人、立たない人


 
会社勤めをしていた頃、インドネシアのプラント建設工事現場に10ヶ月ほど出張していたことがある。米国製の15000KWのガスタービン発電機の据え付け、試運転に向けて、設計サイドから派遣されたのである。メーカーからは、サービスマン(技術者)が数名現場に来ていた。彼らと日本側のプロジェクトとの調整が、私の主たる業務だった。 

 現場に入ってから数週間経った頃、私の所属部から同僚が短期出張でやって来た。ある日、現場事務所で、その同僚と、私と、メーカーのサービスマンのチーフの三人が話をしていた時、チーフが私を指して 「Mr. Otake is a useful man.」 と言った。直訳すれば「大竹は役に立つ男だ」となる。チーフが部屋を去ってから、同僚は、「メーカーの人からあんな事を言われてはダメだ」と言った。業務の立場で言えば、こちらの方が上である。上の者が下の者から「役に立つ」などと言われるのは、本末転倒であり、甘く見られている、と言うのである。

 私は、プラントを建設するという共通の目的がある者どうしが、協力するのは当然だし、立場の違いを越えて、お互いに役に立つように働くのは、むしろすべき事だ、と考えていたので、同僚の発言に驚き、またがっかりした。

 今さらその同僚の事を悪く言うつもりは無いが、実は良くない評判も聞いた。プロジェクトの一人は、以前もその同僚と仕事を共にした事があった。彼の名前が話題に上ると、「あいつは、頭が固く、気が利かない、使えない男だ」と決め付けた。